本稿では、どのような濃度(基数) \(m\) に対しても直積空間 \(\{0,1\}^m\) からの全射連続写像が存在しないようなコンパクト (compact) Hausdorff空間の代表的な例について、自己完結的 (self-contained) に解説します。特に、証明の根幹をなす Hewitt-Marczewski-Pondiczery の定理の証明の詳細について、組合せ論的な補題から丁寧に導出します。
位相空間論において、ある基数 (cardinal) \(m\) に対して \(\{0,1\}^m\) の連続像となるようなコンパクト (compact) Hausdorff空間はダイアディック空間 (dyadic space) と呼ばれます。本稿の目的は、ダイアディック空間 (dyadic space) ではないコンパクト (compact) Hausdorff空間の具体例を構成し、その性質を証明することです。
以下の証明を読み解くために必要な基本的な定義を確認します。
非可算な濃度を持つ離散空間 (discrete space) の一点コンパクト化 (one-point compactification) が、目的の空間となることを示します。
この節では、\(X\) が \(\{0,1\}^m\) の連続像になり得ないことを示すために、Hewitt-Marczewski-Pondiczery の定理の核心部分である「可分空間の任意の直積空間が ccc を満たす」という事実を詳細に証明します。
空間 \(\{0,1\}^m\) が ccc を満たすことを証明するために、まず組合せ論における極めて強力な補題である \(\Delta\)システム補題 (\(\Delta\)-system lemma) を導入し、その証明を与えます。
この \(\Delta\)システム補題を用いて、Hewitt-Marczewski-Pondiczery の定理の根幹である次の定理を証明します。
非可算離散空間の一点コンパクト化 (one-point compactification) 以外にも、ダイアディック空間 (dyadic space) とならないコンパクト (compact) Hausdorff空間が存在します。以下にいくつかの例を挙げます。
第 1 非可算順序数 \(\omega_1\) に最大元を追加した \(\omega_1 + 1\) はコンパクト (compact) Hausdorff空間です。この空間も可算連鎖条件 (countable chain condition) を満たさないため、ダイアディック空間 (dyadic space) にはなりません。さらに、点 \(\omega_1\) において第 1 可算公理 (first countability axiom) を満たさないという特徴があります。
位相空間が超不連結 (extremally disconnected) であるとは、任意の開集合の閉包が再び開集合(すなわち、clopenな集合)となることです。\(\beta\mathbb{N} \smallsetminus \mathbb{N}\) (自然数 \(\mathbb{N}\) に離散位相 (discrete topology) を入れた空間の Stone-Čech コンパクト化 (Stone-Čech compactification) から \(\mathbb{N}\) を除いた空間)などの無限な超不連結 (extremally disconnected) なコンパクト (compact) Hausdorff空間は、決してダイアディック空間 (dyadic space) にならないことが知られています。